2010年度3月研究会(2011年度)

2010年度3月研究会

東京都立府中西高等学校 勝俣

2010年3月3日 武蔵野美術大学新宿サテライトにおいて「鑑賞」をテーマに第5回研究会が開催された。

1.「旅するムサビ@府中西高校」
まず府中西高校勝股からは2月に1週間にわたって府中西高校で武蔵野美術大学の学生によって開催された「旅するムサビ」の報告。2人の武蔵野美術大学学生にも来てもらい、スライドの紹介を発表してもらった。以下その内容を紹介する。

(1)旅するムサビとは
・武蔵野美術大学の教職履修生を中心になった活動
・全国の小学校・中学校・高等学校に‘旅して’ 美術の楽しさを児童・生徒に伝え、一緒に体験する。
・公開制作・作品展示・作品を前にした対話式鑑賞 学校美術館、ワークショップなど活動内容は学校ごとに組織されたメンバーが企画し現場の先生と協議して決定する。
・府中西高校は旅ムサの初めての高校での活動となった。
・メンバーは12人

(2)活動内容
●黒板ジャック
あらかじめ募ったムサビ生が旅ムサの始まる前週の土曜日に、黒板にチョークで絵を描いた。生徒は月曜日の朝登校して初めて絵に気づく。生徒は興奮して各教室を回って鑑賞しあう光景が。始業時に授業担当者が消す。生徒・教師・学生
が一体となったライブ感が生まれた。



●ワークショップ
・目隠しスカルプチャー
視覚を封じて行うワークショップ
触覚だけをたよりに粘土で形(ジャガイモやピーマンなど)を描写



・ライトドローイング
暗くした部屋でペンライトを長時間露光してデジタルカメラで撮影すると光跡がカメラに写りこむ。最終的にはグループに分かれて[喜怒哀楽]をテーマに作品を作る。



・キリバremix
人拓とろう
紫外線に反応する青焼き用紙(コピーア
ートペーパー)の上にさまざまな素材や、あらかじめ生徒から集めた「ことば」を透明 用紙に印刷したものなどを乗せて画面を構成し、光にあてアイロンで熱を加えて青い影を浮かび上がらせる。→キリバremix
さらに大きな紙に人体をのせて大きな作品を→人拓とろう



(3)旅したムサビが残したもの
・学校全体の美術科への興味・関心・理解。(職員室でも教室でも旅するムサビが共通の話題に)
とても純粋に「美術って楽しい」と思う気持ちを生徒が体験できた。
高校生に近い年代の人たちが真面目に学んでいる姿に生徒たちが触れることができた。共感・親しみ・刺激多くのものを得られた・・・。
・普段美術の教員が一人であること、特に新しい分野へのスキルがないことで、なかなか実現できない内容の授業ができた。(ライトドローイングなど)
・教師自身が真面目な学生さんたちから刺激を受けた。自分の普段の授業を客観視できた。
・コミュニケーション力を高めるための美術の授業の可能性を感じた。例え
ばみんなで「つくる」楽しさなど。
作品は校内の中央廊下に美しく展示され、作品の一部は1年たった今も常設展示のように校内を飾っている。



 

2.鑑賞空間美術室
都立上野高校 望月
上野高校での鑑賞の実践の報告

(1) 高校の授業における鑑賞とは?
美術の鑑賞は生涯もっとも手軽に長く親しんでもらえるジャンルである。また美術鑑賞は視覚文化のメッセージを読み解き能力を向上させる機会でもある。また、知識や体験を咀嚼し表現することで理解力・問題可決能力を向上させることができる。しかしこれらは機会がなければ学ぶことができない。高校の授業は人生最後の鑑賞を学ぶチャンスとなるため大変重要である。
授業をデザインすることができる教師として取り組むべきことは
1 鑑賞に取り組みやすい環境を作ること
2 鑑賞への動議付けを行うこと。
3 鑑賞を深める体験を与えること。
そして生徒自身が考える・表現する・感じるきっかけを与えること。

上野高校では鑑賞のための鑑賞作りとして生徒の作品を美術室から校内中にとにかくたくさん展示している。中にはよくわからないものも多いが生徒は常に作品と対峙し考える機会を与えられている。
また鑑賞への動議付けとして個人のポートフォリオに鑑賞の記録をまとめている。教師がそれを見て質問やコメントなどコミュニケーションの場になっている。またお互いの作品を鑑賞したとき「他者の作品をどう鑑賞したか」に関しても評価の対象とするなど重要視した。
また、鑑賞を深める体験として例えば日本画を学ぶとき実際に地元の土を採取して絵の具を作るなど資料だけでなく実体験を通して作品を鑑賞できるような機会を多く作った。

(2) 書道科との共同制作
生徒の作品制作においての問題として、試行錯誤しても作品をより良くすることができない、どう深めればよいのかわからない、自覚ができていないということがあった。そのためには自分の作品を客観的に見ることが必要でさらにそのためには他者の力が必要となる。そこで他教科との越境的なアプローチが必要と考え、その第一歩として書道科との共同制作授業を行った。
美術の生徒は学校で収穫した夏みかんをモチーフに日本画を書き、書道の生徒はその絵に書を書く。美術・書道の生徒と一緒に「鶴図三十六歌仙和歌巻」を鑑賞。言語化して発表しお互いの意見を聴きあう。そして美術・書道の生徒が互いの作品を持ち寄り、完成イメージを話し合う。その後書道は書の練習をし、美術は打ち合わせのイメージを元に絵を描き始める。途中1回の打ち合わせの後美術は描きあげた絵を書道の人に預け、書道では清書を行う。(美術ではそのとき落款作り)
書道の人が完成作品を美術室に持ち、共に落款の位置を決めて押印する。互いに引き立てあった点をポイントに感想を書く。完成作品は相互鑑賞し目的が達成されているもの2点に手紙を書く。

(3)他教科との共同授業で学んだこと
・他者と関わることで、事象の認識と理解を深める→
作品を客観的に見直し、試行錯誤する→
問題解決能力が向上する→
作品の質が上がる(このループが生徒の学びを深めることができる)
また、書道の先生より制作に長く取り組むようになった、クラス全体の雰囲気が良くなったという声が寄せられた。

他教科との共同制作はやってみたいと思いつついろいろ手続きや調整が難しく実現化
する前に躊躇してしまうのが本音である。このような授業を軽々と乗り越えてしまう望月先生のエネルギーと行動力には大変魅了された発表だった。



 

3.鑑賞模擬授業
成瀬高校小沼のコラージュ授業を体験
研究会最後は成瀬高校小沼先生による模擬授業。先生が毎年コラージュ制作授業の前に行っている鑑賞授業を本来2時間かけて行っていることを50分で体験した。以下生徒の目線にたった感想を交えてレポートする。

机上にコラージュ技法を使った多くの20世紀作家の作品のコピー(A3大の大きさ:ピカソ・ブラック・エルンスト・マグリット・ラウシェンバーグ・キーファーetc)、中から好きな作品を一枚選ぶ。

B4 プリント ワークシートを埋めていく形で作品を鑑賞(模写以外は全て言葉に置き換えての表現)
・作品名 作者名 年代
・作品の模写(鉛筆で)
・作品に使われている素材
・作品から受ける印象を言葉であらわす。
この作品の(中で起きている)物語を作り、文章で表現する。

鑑賞したコラージュ作品を参考に、
・自身がコラージュ作品を制作する。
(教師が用意したもの。さまざまな質感の布・糸・紙など。{古着なども多く、触覚・色彩などバラエティーに富んでいる。}グラビア中心の雑誌)
・A4大の黄ボール紙に選んだ素材を張り、自由に構成していく
・出来上がった作品に物語を作り文章で書く。
・最後に作品を並べ互いに鑑賞し、文章を発表しあう。
※今回時間の都合で鑑賞の時間を短時間しかとれなかったが、本来の授業では作品と物語の発表の時間にもっと多くの時間を割いている。

授業を受けての感想
ワークシートの体験が秀逸だった。
まず、模写をすると細部まで良く目を通す。絵の構成(配置・絵の設計図)が頭に入る。そしてざーと観たときは気づかない細かい部分に描かれていることに気がつく。
・次に絵に描かれていることを言葉にまとめると、それまで漠然と感じていたものの輪郭がはっきりする。言葉にまとめる作業をしないとそのときは感じても時間がたつと拡散していってしまうが、言葉にすることによってその感覚をまとめ、整理することができる。自分が作品のどこに興味をもっているのか、作品の本質は何なのかといった一歩深い部分に踏み込むことができる。このワークシートを通して普段は見ているようで観ていない作品が、自分の身体の中にスーッと入っていくような感覚を得られた。身体に入ったものはすぐには忘れない。記憶として自分の中に残る。
また、自分の作品に物語を作る体験もまた興味深かった。こちらも制作するときは漠然とした目的はあるものの多分に感覚的に作っていたのだが、出来上がったものを文章で表すことで表現していた自分の意図を客観的にみることができた。
そして並ばれたさまざまな作品を見比べる時間もとても楽しく、他の方がどんな思いで創作したのかその内面に触れることも面白かった。ものを創作することへの敬意の気持ちでいっぱいになった。
今回、小沼先生ご自身がとてもお忙しい中で時間を割いていただき、模擬授業を行ってくださったこと、本当に感謝いたします。生徒の立場に戻り授業を体験するとまた新しい発見があることを知ることができた、貴重な時間をすごすことができました。

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