パウル・クレーの鑑賞授業(2011年度)

パウル・クレーの鑑賞授業

東京都立深川高等学校 村上

1.はじめに
今回、私はパウル・クレーの鑑賞授業の授業報告ということで、記載することになりましたが、私が研究している鑑賞の授業は「鑑賞のための鑑賞」です。「鑑賞のための鑑賞」とは、その作品を“見て味わい楽しむ”ことを目的とした鑑賞で、作品をただ ぱっと 見るのではなく、その作品の色や質感、空気、形、様々な面から観察するように見ることで、“考えることを楽しむ”ことを学ぶ授業です。制作方法の理解(知識理解)を目的とした「表現のための鑑賞」とはまた違う、美術の授業の形です。最近、美術館で多く取り入れられている対話型鑑賞を基本の形とし、作品によってアピールの形を工夫し、生徒達に見ることの楽しさを教えています。この「パウル・クレー作品の鑑賞」はその形のひとつだと考えてください。

2.鑑賞のための鑑賞

「鑑賞のための鑑賞」で見につけさせる力は、①「分析的に物を見る力」②「観察した内容を系統立てて思考にまとめる能力」③「思考したことを言葉で表現する力」です。中でも③を重要視しています。ただ作品を観て感動して終わるのではなく、しっかりと感じたことを自分なりの言葉にする活動まで持っていくことです。ただ見て感動して終わるのでは何を理解したかわからない、自分なりの言葉でいいのでしっかりと言葉にすることで、感じたことさらに深く理解させます。また、これらの力は将来作家や作り手となる子どもたちはもちろん、直接芸術に携わることのない生徒達にも必ず必要な力です。文化的な作品を本当の意味で楽しむという教養を身につけることにもなるでしょう。「観て、考えて、味わう。」鑑賞は全ての生徒達に必要不可欠だと考え、研究と普及の必要性を強く感じています。

3.鑑賞授業の段階の必要性

生徒にクレーのような抽象絵画を味わい、楽しませるために工夫をしていますが、対話型鑑賞のスタイルを主軸としてアレンジを加えています。また、鑑賞の授業も段階を踏むことが必要なので、クレーの絵を見せる授業を行う前に2回対話型鑑賞の授業を行っています。(はじめはクレーの「忘れっぽい天使」二回目は「アンリ・ルソーの戦争」を鑑賞)「見る」ではなく「観る」ことの理解や他者の意見を聞きながら考え方を深めていくことを習慣かせるためです。またその作品も具象的かつ物語性のある作品を選んでいます。生徒がわかりやすく想像しやすいものを選定していくことも鑑賞授業においてとても大切です。

4.クレー作品の鑑賞の工夫

今まで見てきた作品とは違う抽象絵画は生徒が身構えてしまうこと多く。どのように生徒の考え方をほぐし、クレーの世界に入り込ませるかが問題でした。クレーの作品の特徴は様々(支持体の工夫、色彩、線、形、マチエールなど)ですが、私が重要視したいのは色と線です。しかし、本物を鑑賞するのに勝るものはなく、特に色彩は作品のカラーコピーでは伝わらない部分がたくさんあります。ここで注目したのはクレーの作品の中でも記号で構成された作品です。「英雄的な薔薇」や「ルッツエルンの公園」のような特に太い線で様々な記号が描かれている作品は構成している要素が多く、物語性も有り鑑賞の入り口として生徒が思考しやすいと判断しました。あえて色彩には大きくふれず(生徒は言わずとも色彩も見ている)、記号のみに鑑賞するポイントを絞らせ、「記号の形」を味わうことを鑑賞のポイントとします。またキーワードは「○○に似ている」「○○に見える」とし、その記号がいったいなんなのか、を想像させ物語をつむいでいくように授業の流れを作りました。また、最終的にクレーの「ルッツェルンの公園」を白黒にコピーさせたものを塗り絵させます。はじめに絵全体を分析させ、その記号や形に合う色を選び塗ることで鑑賞して感じたこと色でも表現できるようにしました。実際にクレーの作品に手を入れることでその作品の中に入り込むことを促します。

5.授業展開

パウル・クレーの鑑賞
「○○に見える!」「○○に似ている」

1 パウルクレーについてパワーポイントを使用して紹介、彼の生い立ちや影響を受けたもの、光や色彩への目覚めを紹介し、彼の作品を何点か見せる。
2 記号が多く描かれている作品「ナイルの伝説」でストップし彼の作品の中には様々な形や記号が描かれていることを観ながら確認させる。
彼の作品の鑑賞するポイントは「○○に見える!○○に似てる!」であると発表し、生徒達と対話しながら「ナイルの伝説」の中に描かれている記号を発見させ、とある形が何に見えるかを答えさせながら、意見を全体で共有する簡単な対話型鑑賞を行う。
(生徒の意見を共有させることで、様々な発想や見方を全体で理解させる。)

3 グループごとに「英雄的な薔薇」のカラープリントを配布し、②で行ったように対話型鑑賞を行う、(みつけた記号や形はプリントに直接かきこませる)ある程度意見が出たところでグループワークとし、話し合いながら記号や形を自分たちだけでみつけさせ、分析させる、ある程度分析が出来上がったら、みつけた記号や形をもとに話し合いながら物語を作らせる。(観て、分析したことを物語にすることで思考した内容をまとめさせる)カラープリントに発見した内容を書き込ませグループで話し合いながら鑑賞させる。



4 それぞれの作品を回収し、おもしろい物語を発表。それぞれの作品のいい所を評価し認めてあげる。
5 「ルッツェルンの公園」(生徒にはタイトルを伏せて提示)が白黒で2面印刷されたプリントを配布する。左側を分析用とし、右側を塗りえ用とする。左側で今までやったように記号を分析しみつけたものを書き込ませ、その分析を踏まえ右側の作品に色鉛筆で色を塗り、オリジナルの世界をつくらせる。最後にオリジナル作品に対して文章で説明し、出来上がった作品を壁に張り付けで提出、終了。(全員の作品を壁に貼り付けることでオリジナル作品を鑑賞しやすくする。)



先ほどと同じように書き込んで分析させる。
見えるものを素直に書かせる。



分析をもとにクレーの作品に色をつける。最後に作品の制作意図、物語等を書かせる。

評価について

鑑賞において大事なのは作品に対してどれだけ思考したかということです。感じたことを「自分なりの言葉で具体的に表現したか」という点を重視し、生徒の文章を添削します。「おもしろかった」ではなく、「○○がおもしろかった」に発展させることや、作品を読みとろうとする意欲的な姿勢がみられるかという点を添削し評価をつけています。少ない文章でも自分なりの言葉で見たことを表そうとしていることを読み取ることができるように心がけています。

6.今後の課題とこれから

私の「鑑賞のための鑑賞」の授業もまだ研究段階にあります。対話型鑑賞も手探りで行っていますが、クラスによって食いつきも変わってくるのでその場の状況を見ながら判断し進めていくので、おもしろい反面、難しいと感じます。評価も慣れるまでかなりの時間がかかりました。「そもそも鑑賞に評価が必要なのか?」という考えもよぎりましたが、鑑賞をひとつの授業として成り立たせていく上でも評価は必要でしょう。
見て味わうことの楽しさを教えることは今後も大きな課題になっていくのではないかと思います。私は高校生のころ鑑賞の授業を受ける機会がありました。その経験もあり、鑑賞の授業を作るという意識が無意識的に組み込まれていたため、このように形にすることができました。鑑賞の授業をこれからも研究し多くの人に紹介できるよう、これからも研究を続けていきたいと思います。

参考文献;
アメリア・アレナス著「見る 考える 話す」
上野行一著「私の中の自由な美術」

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